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徳次は口のあたりをもごもごさせた。
「捕虜が内地へ送られるさうだよ」
彼は、医師検定試験といふものが実際は医専を出ることなんかよりはるかにむつかしいものだと知つてはいたが、しかし、正規な教室で得るところのものは難易にかゝはらない何か別の正統さといつたやうなもの、より科学的な、――つまり、医者らしさだといふことを、心のどこかで信じていた。それが、房一には欠けている、といふ風に思はれた。
「いゝ恰好で!」
「そうしてそのお松と言う女は?」
喜作の方でも、房一の来るのを認め、
房一はその時逸いち早く、横に寝かされている男の投げ出した手首に血がかすりついているのを、そして寝ながら立てている片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みているのを見てとつた。
「誰?相沢の知吉さんかね」
「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」
「ねえ」
「あら、お帰んなさい。随分早かつたのね。もう済んだんですか」
体が、と云ふより声が引つこむと、代りにそこに姿を現したのは盛子だつた。すると、うす暗い台所の板敷の上に眩しいやうな、うすい葉洩れ日のやうな気配けはいが立つた。
「ねえ。はやく」